=最前線から
- ■連載(54)=相澤紀子=ブラジル日本語センター=ブラジル再発見の旅
2006年8月10日(木)
ワールドカップでブラジル中が浮かれていた六月、日本から両親がやって来た。「ブラジルに行くことはないと思うから、二年間元気でね」と成田で見送られたのが去年の一月。それから一年余り、イグアスの滝の雄大さ、リオの風光明媚な景観をことあるごとに吹聴したのがよかったのか、私がいる間にと思ったのか、今年になり旅行の予定が決まった。
気の早い父は五反田の領事館で早々にビザを取り、衣装持ちの母はスーツケースに夏服、冬服をぎっしり詰め込み、準備万端でやって来た。
朝早くグアルーリョス空港へ出迎えにいくと、三十時間の移動でさすがに疲れてはいたものの、思っていたより元気そうな二人の姿を見つけて安心した。さっそくタクシーで自宅へ戻り、荷物を部屋に置いて一息つく。
手洗いへ向かう母に「紙は流さないでね」というと「えっ」と怪訝な顔をされた。こちらの紙は水に溶けないので、脇にあるくずかごに捨てるよう説明しても、まだ腑に落ちない様子であった。そんな姿を見て、一年半前ブラジルに到着したばかりの頃をつい思い出してしまった。あの頃は買い物をしておつりがきちんと戻ってこないことにも驚いていた。
翌朝、リベルダージ広場の市場を見てもらおうと、ガルボン・ブエノ街を歩きながらリベルダージへ向かった。道を歩く時は、段差と車に気をつけるよう口酸っぱく注意する。ブラジルの運転者には歩行者優先の考えがほとんどないため、日本と同様に車が止まってくれるものだと思っていたら危なくてしょうがない。道を渡るのも自然といつもより慎重になっていた。
丁度その日は日本対クロアチア戦があり、経過が気になる私は、タクシー乗り場や店先のテレビでちらりちらり確認しながら案内する。二人はもの珍しそうに日本語の看板を眺め、昨日着いたばかりなのにもうお土産の下見をしていた。
広場は相変わらずのにぎわいで、喉の渇いた二人にマラクジャとゴイアバのジュースを飲んでもらう。そのおいしさと安さに驚く顔を見て、なんだか私までうれしくなった。広場にはアクセサリーの露店も立ち並んでいる。
父には気の毒だが母はこういったものに目がない。さっそくブレスレットとネックレスを買っていたが、まだ値段が安いのがせめてもの救いだった。気づくと試合は引き分けで終了していた。
旅はこの後、イグアスの滝、リオデジャネイロ、パンタナールへと続いた。天候にも恵まれ、ブラジルの広大さ、美しさを一緒に満喫できたと思う。けれども、今回の旅で私が一番新鮮に感じたことは身近な「日常」だった。
両親を通して見ることで、家の中にも、見慣れた通りでさえも、一つ一つ新しい発見があった。慣れていく過程で見えなくなっていくものがあるのかもしれない。帰国までの残り五カ月、もう少し新しい「発見」を探してみたい。
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【職種】企画・編集・広報
【出身地】神奈川県横浜市
【年齢】31歳
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